帰化申請
年金未払いでも帰化できる?
- 2025.01.07
「年金を払っていないのですが帰化できますか?」「年金を払っていなかった時期があるのですが帰化に影響はありますか?」「年金未加入だと帰化できないのでしょうか?」帰化をご検討中の外国人の方々から、こういったご質問を受けることがあります。そこで今回は、帰化と年金の関係について見ていきたいと思います。
日本の公的年金制度
帰化の話に入る前に、まず公的年金とは何なのか、簡単に見てみましょう。
公的年金制度とは、老齢、障害、家族の死亡等の場合に本人や遺族へ年金を給付し、相互に救済するためのものであり、国によってその制度設計は異なります。
日本の公的年金制度は2階建てと言われ、国民年金、厚生年金の2種類があります。以下の図の通り、国民年金は基礎となる年金であり第1号~第3号被保険者が対象となります。第2号被保険者には、さらに厚生年金が上乗せされます。
それでは、国民年金、厚生年金とは、それぞれどういったものなのでしょうか。見ていきましょう。
国民年金
国民年金は「国民皆年金」とも言われ、法律上、「日本国内に住所を有する二十歳以上六十歳未満の者」が入らなければならないこととなっています(国民年金法7条1号参照)。「国民年金」という名称ですが、日本国籍であることは要件ではないため、外国人の方も対象となります。
なお、国民年金保険料は、月額16,980円(2024年12月時点)です。原則、10年間保険料を納めると65歳から年金を受け取ることができます。このような老齢給付の他、遺族給付、障害給付もあります。
厚生年金
厚生年金は、「適用事業所に使用される七十歳未満の者」に加入義務があり(厚生年金保険法9条参照)、「適用事業所以外の事業所に使用される七十歳未満の者」であっても、厚生労働大臣の認可を受ければ加入することができます(同法10条参照)。なお、「適用事業所」とは、厚生年金の適用対象となる事業所をさします。
厚生年金の保険料は報酬月額の18.3%(2024年12月時点)ですが、会社が半額を負担するので、実際の本人負担は9.15%となります。
また、厚生年金も、国民年金と同様、老齢給付(原則65歳から)、遺族給付、障害給付があります。なお、上述の通り、厚生年金は、国民年金への上乗せですので、ここでの給付は国民年金による給付を含むものとなります。
それでは、それぞれの年金の対象者について、具体的に見ていきましょう。
具体例
学生
20歳以上の学生の方は、国民年金の対象です(第1号被保険者)。
来日して市区町村に転入届を提出すると国民年金の加入義務が発生します。また、20歳未満で来日した場合は、20歳になった時点で、国民年金に加入する必要が生じます。
ただし、一定の学生の方々を対象とした「学生納付特例制度」というものがあり、申請して承認されれば、年金納付の免除を受けることができます。通常は、留学先の学校から案内があるかと思いますが、学生の方は、ご自分がこちらの対象となるか確認されることをお勧めいたします。
会社員
適用事業所に勤める会社員の方は、厚生年金の対象となります(第2号被保険者)。通常は会社が給料から天引きして年金保険料を納めており、未加入や未納の問題が生じることは考えにくいかと思います。
他方、会社が適用事業所でない場合は、その会社の会社員は国民年金の対象となります。
会社の経営者、代表取締役
会社が、厚生年金加入義務のある強制適用事業所にあたる場合は、まず会社として厚生年金に加入する必要があります。さらに、従業員も厚生年金に加入させなければなりません。
そして、経営者、代表取締役自身も会社から報酬を受けとる以上、「適用事業所に使用される…者」(厚生年金法9条)に該当することとなり、厚生年金に加入する必要があります(第2号被保険者)。一人会社の場合でも同様です。
個人事業主、自営業者
個人事業主や自営業者の方は、国民年金の対象者です(第1号被保険者)。
なお、常時5人以上の従業員を雇用している場合は、厚生年金の強制適用事業所となり(一部の業種を除く)、個人事業所であっても厚生年金に加入することが必要となります。その場合でも、個人事業主、自営業者自身は厚生年金の対象とならず、国民年金となります。
会社員・公務員の配偶者(年間収入が130万円未満)
厚生年金加入者である会社員や公務員の配偶者で、年間収入が130万円未満の場合、国民年金の「第3号被保険者」にあたり、年金保険料を支払う必要はありません(国民年金法94条の6参照)。
なお、第3号被保険者の認定のためには届出が必要です。会社員・公務員の配偶者本人が記入し、会社員・公務員の勤務先の事業主が管轄の年金事務所に提出します。
個人事業主の配偶者
個人事業主の配偶者は、たとえ主婦・主夫であっても、個人事業主の扶養に入り、年金保険料の免除を受けるということはできず、国民年金保険料を支払う必要があります(第1号被保険者)。
他方、個人事業主の配偶者が会社等に勤めており、厚生年金の対象である場合は、勤務先で厚生年金に加入することになります(第2号被保険者)。
離職中
退職すると厚生年金の対象ではなくなるため、退職後すみやかに国民年金への加入手続きを行う必要があります(第1号被保険者)。加入手続きを行わないと、年金未納扱いになってしまうため、注意が必要です。なお、失業等による特例免除制度がありますが、適用を受けるためには申請が必要となります。
他方、会社を退職し、会社員等の被扶養者となる場合は、扶養されることになった日から14日以内に届出を配偶者の勤務先等に提出する必要があります(3号被保険者)。その場合、年金保険料の納付は不要となります。
帰化との関係
これまで見てきましたように、年金制度は複雑で、加入や免除には届出や申請が必要な場合もあります。うっかり払い忘れていたり、離職中の期間は加入していなかった・・・というケースがあります。そのような場合、帰化に影響があるのでしょうか。
結論から言いますと、影響はあります。年金加入・納付状況は、帰化の「素行要件」の中でみられることになります。
素行要件とは?
帰化の要件の1つとして「素行が善良であること」が求められます(国籍法第5条1項3号)。
抽象的で分かりにくいですが、法務省のホームページでは、「素行が善良であるかどうかは、犯罪歴の有無や態様、納税状況や社会への迷惑の有無等を総合的に考慮して、通常人を基準として、社会通念によって判断されることとなります。」とされています。(参照:「国籍Q&A」)
年金の加入・支払い状況も「素行が善良」かどうかの一要素として審査されることになるのです。
何年分の年金納付状況がチェックされるのか?
一番気になるのは、「では年金保険料を直近何年分払ってあれば大丈夫なの?」という点かと思います。見ていきましょう。
まず、年金納付状況を立証する書類は2通りあります。
① ねんきん定期便と、
② 被保険者記録照会回答票
です。
いずれを提出するかは基本的には任意であり、
①ねんきん定期便であれば1年分、
②被保険者記録照会回答票であれば全記録
を提出する必要があります。
「じゃあ、直近1年分払ってあれば大丈夫なのか!」
と思われるかもしれませんが、ねんきん定期便を提出したものの、内容に疑問点があったというような場合は、被保険者照会回答票の提出を求められることもあります。その場合は、1年以上遡って納付状況をチェックされることとなります。
このように、最低でも直近1年間の年金保険料納付は必要ですが、1年分納付していれば絶対大丈夫というものではなく、注意が必要です。
未加入・未納の場合
上述の通り、少なくとも1年分の年金納付状況は審査されることになりますが、そもそも未加入だという場合や、未納があるという場合は、一旦帰化をあきらめ、1年以上の納付実績を作っていくしかないのでしょうか。
まず年金未加入の場合ですが、帰化において年金加入は必須となりますので、まず加入し、少なくとも1年間の支払い実績を積みましょう。
他方、年金に加入しているが未納があるという場合は、過去2年分に限り、遡って追納することができますので、遡って支払いましょう。
ただし、既述の通り、「1年分の納付実績さえあれば、年金に関しては絶対に問題がない」というものではなく、遡って記録の提出を求められることもあります。
また、帰化においては、提出される書面のみではなく、あらゆる観点から、実態調査がされるのが特徴です。そのため、安易に「提出しないので、大丈夫」ではなく、行政が保有するデータは確認がされる可能性が高く、そのうえで、どう対応していくかを考えた方が賢明です。
また、年金の加入・納付状況は素行要件の一要素でしかありませんので、他の要素との相関関係によっても結論は変わってきます。仮に、「年金の全履歴の提出を求められたが、2年以上前に未払いがあり、もう追納できない」といった場合でも、未納の理由は様々であり、悪質性のレベルも、個別の事情により違います。素行要件という枠の中、様々な要素が絡み合って判断されていくため、過去の未納の理由についての説明を説得的にしていくことが必要となります。
まとめ
帰化というのは日本の国籍を与えるという重大なものですから、慎重な審査がなされます。そのような慎重な審査の一環として、申請者のこれまでの素行も見られていくことになります。
年金の加入・納付状況というのは、その素行の一要素です。
特に、超高齢化社会の日本においては、日本人の年金問題も重要な問題です。
外国籍の方が、日本で年金をしっかり負担してきたかどうか、今後も年金・税金等を負担してくれるのかどうかは、帰化を許可する日本の法務局側にとって、大変重要なポイントといえるでしょう。
また、支払年数等により簡単に判断できるものでもなく、申請者の方々それぞれの状況により結論が異なる場合がありますので、年金に関してご不安がある場合は、経験豊富な専門家にご相談されることをお勧めします。
当事務所は、多くの帰化案件に携わってきております。帰化をお考えの方で、年金加入・納付状況について不安があるという方は、ぜひお気軽にご相談ください。
弊所グループは、大阪事務所(阿倍野・天王寺)と東京事務所(渋谷区・恵比寿)を拠点に活動しており、出張相談・オンライン相談もお受けしております。
永住許可申請、帰化許可申請、就労ビザ申請、留学ビザ申請、経営・管理ビザ申請など入管(出入国管理局)への手続きとそれに伴う起業にかかる様々な手続き、在留資格に関わるビザ更新の手続き等をワンストップ行っております。日本語でのご相談にご不安の方は、ベトナム・ネパール・中国・バングラデシュ・英語圏等様々な各国通訳者が在籍しておりますので、ご安心してご相談下さい。
まずは、在留資格、ビザのことでお悩みの方がいらっしゃいましたら、些細なことでも結構ですのでお気軽にお問い合わせ下さい。
フリーダイヤル:0120-138-552
英語対応専用電話:080-9346-2991
中国語対応専用電話:090-8456-6196
この記事の監修者
- 柳本 良太
- 行政書士・司法書士
24歳のときに司法書士、行政書士、賃金業務取扱主任者の国家試験を同時合格。
大手資格予備校の専任講師をしながら、司法書士・行政書士等の法律関係の事務所を独立開業し、現在、司法書士・行政書士として、15年以上の経験を持つ。
一部上場企業不動産会社、金融機関、介護事業者や専門士業会等において、セミナーや講演・講師活動も行い、現在60講演以上の実績がある。
その他、法務省告示校の日本語学校の理事長を務め、不動産会社(外国人対応可能)の顧問を務める等、外国人関連産業において、多方面にて活躍中。
ビザ・帰化と在留のことは
専門家に相談するのがおすすめ
当事務所ではビザに関する各種申請・帰化申請についての無料相談(初回に限り)・お問い合わせにビザ・帰化申請の専門家が対応させていただいております。
また、英語・中国語・韓国語の各言語にも対応可能で専門知識をもっている外国人スタッフが在籍しており、各言語での相談・お問い合わせにも対応可能です。こちらからお気軽に無料相談やお問い合わせをご利用ください。